「カッパのかーやん」が出版された時の巻 2
1996年、『カッパのかーやん』が出版される時のお話です。
さて、持ち込み原稿が見事出版されるあかつきとなり、満足感に、まったりとくつろいでいたある日。
編集部のTさんから、お電話がかかってきました。
「溝江さん、あなたの方で、誰か、描いてほしいイラストレーターの方はありますでしょうか」
「と、もうしますと?」
「ご本の挿し絵と表紙を描く絵描きさんを、選んでほしいのです」
「えーっ、この私が、イラストレーターさんを選んじゃっていいのですか?」
びっくりしたと同時に、とっても嬉しくなりました。
ふつうは、文章書きが選べるものではないからです。
そんなわけでして。
原稿直しも順調に、次は、いよいよ絵描きさん探しです。
「いちばん大きな図書館に行ってみよう」
大阪府立図書館にやってきました。
絵本絵本、童話童話、と探してみたけど、どうもピンとくる絵がありません。
これだけ本があるのに、自分のイメージどおりってなかなかないものだと、途方にくれだしたころ。
あのおふたりに、お願いするしかないのでは……。
実は、私には密かに意中の人がいたのです。後藤ゆきおさん、牧野和子さん。
図書館にやって来たのも実は、このおふたりに描いてもらう前に気持ちの確認をするためだったのでした。
後藤ゆきおさん、牧野和子さんのおふたりは、当時、新聞に連載されていたマンガの作者さんなのですが、キャラクターの表情や動きが愛らしくキビキビしていて、ずっと愛読していたのでした。
しかし。
マンガといえば「ドラえもん」くらいしか知らなかった私は、このおふたりについての前知識のまったくないままに、児童文学の仕事も引き受けてくれると勝手に決めこんでしまったのでした。
さっそく編集者のTさんに連絡。
すると、少し驚いたようす。
「うちで、マンガ家の人にイラストお願いするの、初めてなんですよ」
「どんな物事にも、最初があるのですわ!」
と、言いつのる私。
「しかし、なるほど、面白いかも知れないですね」
と、Tさん。
「府立図書館にも行ったんですけど、このおふたりの絵が一番でした!」
と、ここぞとばかりにプッシュプッシュ、最終的には編集のTさんが、後藤ゆきおさん、牧野和子さんに頼んでみてくれることになりました。
しばらく経って、
「描いてくれることになりました」
と、お返事が。
「ありがとうございます!」
「いやあ、『ハイティーン・ブギ』の作者が、よくひきうけてくれましたよね」
と、Tさん。
「は?」
と、私。
「スローなブギは知ってますけど、ハイティーン・ブギって、なんですか?」
「一千万部売り上げの超ベストセラー、近藤真彦主演で映画化もされたハイティーン・ブギですよ」
ウソ!……マッチの歌は知ってたけど。
原作の漫画は、読んでなかった。
「もしかして、すごい売れっ子作家さんだったんですか?」
おずおずと私。
「ウッ! そんなことも知らずに、名指しで依頼していたのですか?」
しばし絶句のTさん。きっと、図々しいにも程があるとは、思っても、言えなかったのでありましょう。
それにしても、よく、私みたいな者に描いてくれることを承知してくれたものですね。 ちなみにおふたりは、児童文学のイラストを描くのは初めてなんです、とか……。
こんな有名な方が、お忙しいスケジュールを空けて描いてくれることになったイラスト、ぜひ皆さん鑑賞して下さい。そのおりは立ち読みじゃなく、正規購入をいたしましょう。
冗談はさておき。とにかく、私は幸運、そして幸福ですネ!
*後藤ゆきおさん、牧野和子さんの代表作も知らずに、お仕事をご依頼してしまった私。
全く失礼千万でありますが、もう時効と思い、ここに白状いたしました。
懺悔し、悔い改めます、ごめんなさい。
*「カッパのかーやん」(新日本出版社)は、1996年11月20日出版されました。
2002年2月28日 店長 溝江玲子
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