*姫林檎日記-細腕出張スペシャル*

長野県『絵本美術館めぐり旅』バスツアー参加記

今回の『細腕』も玲子に代わって純が担当です。
さて。
7月30日と31日の2日間、長野の『絵本美術館めぐり旅』バスツアーに参加してきました。
旅行なんて、何年ぶりじゃろう。
長野県にはどういうわけか、絵本の美術館がいっぱいあるのでございます。そのすべてを2日間で見て回ることはとうてい不可能だけれども、時間の許すかぎり巡ってみようという企画であります。
参加は、絵本大学同窓生を中心に総勢15名。
バスの手配をはじめ、ありとあらゆる支度とそなえを、K=Yさんがきりもりなさいました。いろいろ大変でしたでしょうに、そんなことはおくびにもお出しにならず、私どもを楽しい旅へといざなってくださいました。ぱふのY=Tさんのバックアップも完ぺきで、大船に乗ったかのようなバスツアー。
京都駅出発のバスに乗り込んでから、楽しんで寝て楽しんでの大忙し。
溝江家からは、社長であり我が母である玲子、それと私、お目付け役の弟と3名を、くりださせていただきました。
玲子は、イルフ童画館の武井武雄のパンフを目的に、参与。
玲子は、この一カ月ほど、身も世もなく武井武雄に燃え上がっておりまして、このバスツアーは願ったりかなったりの企画だったのでありましょう。
まあ、絵本関係者としては、武井武雄目当てというのは、しごく純粋な動機でありますわな。
ところが私は、長野のある美術館にお勤めになられているT=Mさんにお会いするのを真の目的に、参加させていただいたのであった。
そうなのであります。T=Mさんとは、絵本大学秘書をなされていた、あのT=Mさんなのであります(くわしくは過去ナンバー参照)。
「T=Mさん、どうして長野に行っちゃたんだ……」
涙に暮れた数年の月日、しかし、終止符をうつときがとうとう来たのであります。
ヨヨヨ。

「八ケ岳小さな絵本美術館」に到着。

久しぶりにお会いしたT=Mさんは、お肌つやつや、お眼め活き活きで、長野の空気と職場があっているようでありました。
「生きてる、動いてる、しゃべってる!」
私の喜び、いかばかりか。
いや、再会を喜ぶのはいいんだけれど、絵本の原画も観ろ、原画。
「薮内正幸美術館」では素晴らしい精密画の原画はもちろん、奥様のお話もたっぷりおうかがいでき、大感激。
……ほら、ちゃんと美術館めぐりもしてるでしょ。
(;^_^ A
「小さな絵本美術館」では、昆虫型妖精(?)のすてきな絵を発見。T=Mさんにおうかがいすると、クライドルフというスイスの絵描きさんだそうです。
さすが、くわしいなー。
ちなみに、ハンス=フィッシャーも、スイスの人だとか。
うーん、知らなかった。
“フィッシャー”というひびきから、なんとなくドイツの人だと思い込んでいたよ。
「スイスの人です」
だそうです、みなさん。
好きな絵本作家さんなのに、何も知らず、恥ずかし〜。
美術館を訪問するたびに、絵はがきやらマグカップやら、『かいじゅうたちのいるところ』人形やらを購入し、物欲まみれのプロバタリアン(アーシュラ=K=ル=グインの造語)と化してしまった私。
参加された皆さんもご同様で、Kさんなどは、なんと帰りの電車賃まで使い果たしてしまう状態に。
すわ! Kさん京都駅に野宿か?! 大丈夫、銀行に飛び込んで、何とかセーフ。
絵本を展示している美術館を甘く見てはなりません。
別名、散財の館と、私はひそかによんでおります。
散財の館、もとい、美術館を出ると、そこにはでっかい空。
低空を迫力満点に流れる雲は、台風の影響か、それとも長野仕様か。
空気はおいしい。
木々の緑色は、迫力満点に、活き活き。
生活手段さえあれば、こういうところで暮すの、すてきだろうなあ。
まあ、観光客の気軽さがそう言わせるのでありましょうが。
お泊まりはペンション『森の家』さん。
おいしいごはんをいただいて、ワインをたっぷりいただいて、ヨイヨイと夜じゅう騒いで、う〜む、ここは天国か?
ういっ。
メイド・イン・インドのあやしいタロットカードで人生占いなどに興じ、私は深夜3時を前にギブアップ。
ベッドから手を伸ばしスタンドの明かりを消すと、窓を鳴らす風の音。それは、ハイジとおじいさんのお家をほうふつとさせ、スイス調の幸福感に浸りながら私はねむりにつきました。

ハイジふうのお窓。

某ターミネーター女史は、朝の4時までおしゃべりを楽しみ、6時起床でにこにこ活動なさっておられたとのこと。その表情からは、眠いの「ね」の字も感じられず、それどころかさらに15パーセントパワーアップのご様子。この、15パーセントパワーアップするところが、なみじゃない。
これも、絵本の世界の奥の深さなのでありましょうか?
人材豊富な絵本の世界を、かいま見た気分であります。

武井武雄先生のデザインなさったお池。ト○レとちゃうよ。

さて、冗談はさておき。
絵本とは、各ページに絵があって字が書いてあるという以上のものなんだよね。じゃあ、どういう具合に“それ以上”なのかというと、それは、やはり、絵本と私との個人的な関係と言うしかない。
あくまでも絵本とその人との、一対一の関係なんだろうと。
ページを開くたびに、私の頭の中の記憶倉庫ががたがたと音をたて、脳内のさまざまなものが電気信号で連絡しあい、インスピレーションが小さな火花を散らす。
全部個人的なこと。
……個人的なことなんだけれど、素晴らしい絵本には多くの人を惹きつけ、特定の方向性を持ったなんらかの影響を読む者に与えるだけの力が、やはりあるはずだ。その力を、私は普遍性と名付けてみる。
15名という人数でいくつかの絵本美術館を移動しながら、それぞれのかたがたの声に耳を傾けたとき、絵本と個人との一対一の関係と、芸術の普遍性という両面を、同時に感じたのでありました。

個人が判別できない集合写真。WEB上ではよく見る写真だ。

……どう? ちょっとは真面目っぽい話になってる?
(;^_^ A

スズキコージ先生的美女その1・サイケデリックに美しい。
スズキコージ先生的美女その2・太陽のごとき輝き。

とにかく楽しい2日間でありました。
さまざまな事情もあり、これ以上細かいディティールを具体的に書くことができないけれど、それらのディティールは私の頭の中に保管してあって、時間がたつにつれて思い出としての味わいも出てくるでしょう。
それは、子どものころ楽しんだ絵本をもう一度開くのにも似た、あくまでも個人的な喜びで、時間が経過するごとに、「私」だけにしか手が届かないものになっていくのであります。
これこそ、ファンタジーだよね。
……とまあ、抽象論を頭の中で展開して、長野絵本美術館めぐり旅は終わったのであった。

バスの座席でおねむの弟の図。

 



2004年8月2日  溝江純


玲子のプロフィール

溝江玲子 山羊座で12月27日と暮れも押し詰まった大変忙しい時期に生まれました。
昭和12年、旧満州国奉天に生まれて、上海に育ち、終戦後に大連から引き揚げてきました。もう、戦争はこりごりです。
職業はと聞かれると、答えがいく通りもでてきます。一番格好よく答えると、作家かな。それから、7年前立ち上げた遊絲社(ゆうししゃ)という出版社の代表です。
趣味は読書とお絵描き、素材のページのキャラクターの原画も描いています。
へこんだときに呟く言葉は「人間 万事 塞翁が馬」。これで、幾多の試練を乗りきってきたのです。

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