韓国での出会いから!


6月9日、埼玉の公民館で生涯教育を担当しているSさんのお誘いを受けて、埼玉で講座を担当してまいりました。
Sさんと初めてお会いしたのは、彼女のテリトリー埼玉でも、私の縄張り奈良でもなく、韓国の首都、ソウルでした。
昨年の夏。目には見えない『韓国女一人旅』のおのぼりを背中にしょって、ふらふらとソウルの街をさまよっていたときにお会いしたのが、これまた目に見えぬ『韓国女一人旅』のロゴシャツを来て、しゃきしゃきと旅しているSさんでした。
そのときの私はまさにふらふら。かーっと火を吹く唐辛子攻勢に胃をやられてしまい、完全なグロッキー状態。それでも、互いのかがげる『韓国女一人旅』の旗印に、共感と闘争心と競争意識と同族意識をくすぐられ、目線と目線をぶつかり合わせ、お友だちとなったのでした。
ソウルで生まれたソウルメイト、などとうまいこと言ってみたりして。
(;^-^ゞ
韓国から帰国してしばらくののち、Sさんからメールをいただきました。
(メールのやり取りを日常会話ふうに書き記しますと、以下のようになります)
「溝江さんは絵本作家なんですか〜!」
「え〜、言ってなかったっけ?」
「作家? 溝江さん、作家?」
「そういうことに一応はなってるけれど……」
「だって、私の勤めている公民館の図書棚に、溝江さんの絵本があるわよ」
「ええ〜!……って、Sさんは公民館にオツトメナノ?」
「……言ってませんでしたっけ?」
ソウルメイトはソウルで繋がっているわけですから、互いの正体を偶発事故に頼ってしまったのは、これはいたしかたがないのでしょう。
「会いたいね〜」
という話を何度かメールや電話でいたしているうちに、いつのまにやら、Sさんがお勤めになっている公民館主宰の「読み聞かせボランティアの養成講座」の第1回講師を担当させていただくことにあいなったのであります。テーマは、「絵本・児童文学の重要性」プラス「創作にまつわるあれこれ」ということで、私の体験も交えての講演です。
せっかくの遠出ですから、東京での別口の講演も取り決めて、私ってなんて仕事上手でしょ、と自画自賛。
しかし、講座日の朝はあいにくの土砂降り。お客さん、集まるかなあ、と一応は心配してみるものの、心配してみせただけで、朝から新宿を楽しくお散歩。奈良からの正しいお上りさんとしてウインドウショッピングに精を出し、さて、おいしいお昼ご飯はないかしらと思い始めたころ、「埼京線は、いつ発車するか分かりません」というアナウンスがコンコースに響きました。
【埼玉ちょっとまめ知識---新宿駅から与野本町駅に行くには、埼京線を利用しなくてはなりません】
お昼ご飯をキャンセルして、埼京線のホームへ急ぎ足。しかし、埼京線のホームは一番端っこに位置しているうえに、どういう嫌がらせかエスカレーターも見つからず、階段を昇り降り、やっと辿り着いたと思うと、「普通列車のほうが早いですよ、向こうのホームです」
【埼玉ちょっとまめ知識---新宿駅は迷路のように入り組んでいるうえに埼京線はそのすみっこにあるので、ご利用の方は時刻表プラス、ロスタイムを計算にいれて行動されたし】
私は重たい荷物を下げ、またまた階段を昇りました。かばんの中には絵本が入っています。まったく、絵本は大変に重いものなんです。
「ほんとうに普通列車でいいのか?」
と絶えず疑念にかられつつ、しかし列車は無事に与野本町駅に到着。1年ぶりにSさんと再開です。ソウル以来のソウルメイトです(まぎらわしいなあ)。Sさんは、きびきびとして、嬉しそうに手を振って、昨夏からちっとも変わっていません。絵本が詰まった私の荷物を持ってくれます。
「車で迎えにきましたよ」
Sさんの快活な声に、雨の与野本町駅前があっというまに熱い韓国ソウル駅前になったかのような錯覚を覚えました。
韓国一人旅女王を激しく競った昨夏の思い出が、互いの脳裏に艶やかに甦って来たことは言うまでもありません。
私がチマ・チョゴリを買い込んだことを宿の奥さんに聞いたSさんが、「一緒に、チマ・チョゴリを着て写真を写しませんか?」と私を呼びにきました。「チマ・チョゴリ合戦をしかけてきたのか、すわっ!」と眼光鋭く光らせた私は、どうどうとその勝負を受けた、ということもありました。
(チマ・チョゴリを着たSさんと私の対決姿は、こちらをクリックしてご覧下さい)
とはいえ、実際のところは。同じ韓国女の一人旅とひとくちに言っても、じっくりべったりソウルにへばりついたままの私と違って、Sさんは地方を精力的に巡っていらっしゃいました。
私がまったく韓国語も知らないでふらついていたのと違い、Sさんは韓国語を習っていますが、まだ言葉が通じるかどうかも覚束ない中で、パントマイムを使いながらの旅だったそうです。手ぶり足ぶり身ぶりでコミュニケーションしていたのは同じでも、その内容というか次元はぜんぜん違っていたわけです。
まあ、くちおしい!
しかし、勝者のおごりなどみじんにもみせないSさんは、車の中で公民館での活動を生き生きと語ってくれました。Sさんの公民館活動が、いかに生き甲斐になっているかが私に伝わってきます。
公民館に着くと早速、「公民館の中を見てね」と、いそいそと案内してくれます。
公民館は新しくて、児童図書室と児童センターがあります。図書室には大型紙芝居もありましたし、エプロンシアターまで置いてありました。児童センターでは、放課後や休日に子どもたちが遊べるよう工夫されています。職員さんたちが、それは熱心に取り組んでいるようすが伝わってきます。Sさんが誇りを持って、公民館活動をしていることがよく分かりました。
公民館の館長さんにもお話を伺いました。
「作家先生をこのようなところに呼びつけて、Sさんの行動力には私も脱帽なのですが、先生にはご迷惑をおかけしたのではないかと……」
とひたすら恐縮なさっていらして、Sさんの行動力は同意ですが、私は作家とか先生とかそんなにええもんとちゃいますからと、こちらも慌てて恐縮&恐れ入り挨拶。
「いやいやこちらこそご迷惑を」
「いやいやいやいやこちらこそご迷惑を」
と奇妙な譲り合いの光景が出現。
Sさん、実に侮りがたしと、はっとする瞬間でした。
「Sさんがうちの書棚から、先生の『こねこのミーコは』を見つけまして。なんともうしましょうか、不思議な縁だなあと」
いや、本当にひとの縁とは不思議なものです。
館長さんが、「仕事で講演が聞けないのは残念です、テープに録音させて下さい」とおっしゃられて、講座の模様を録音することも決まりました。
講演では、雨にも関わらず、これから「読み聞かせボランティア」をしよう、という意気込みの人たちが集まっていました。女の方に混じって男の方もお二人きていらっしゃいます。男の人も、絵本に関心が出てきたのは嬉しいですね。
私はというと、ちょっと韓国思い出パワーで熱い読み聞かせ技を披露してみたつもりです。Sさんは私のデジカメで撮影係。
「これ、どうやって操作するんですか?」
「いや〜息子に聞かんとわからへんねんけど……」
「は?」
「シャッター押せば、写ると思いますネン」
これ以上ない不親切な取り扱い説明を受けて、Sさんは写真撮影に頑張ってくださいました。


参加者の皆さんは、私の話にうんうんと頷いたり、笑ったり、熱心に目を輝かせて聞いてくれます。私の講演が、絵本と児童文学の理解に少しでもお役に立ってくれたら、これほどの喜びはありません。活字離れが進んでいると言われていますけれど、お気に入りの絵本や児童文学を見つけることが出来た子どもは、とっても本が好きになります。「読み聞かせ」によって、想像力が刺激され伸びていきます。


そして、絵本とか本の魅力が発見できるのです。絵本は子どものものという思い込みが大人の側にありますが、実は、絵本の魅力は大人も離しません。大人だって、「読み聞かせ」に目を輝かして聞き入ってくれるのです。また、絵本を間に挟んで親と子のコミュニケーションが取れるのです。とっても大切な時間を子どもと持つことができるのを、大人も分かって欲しいと思うのです。と畳みかける私。共感して下さる皆様。
このライブ感覚の歓びを、ジーカシャ、ジーというデジカメ操作音がさえぎる……もとい、もり立ててくれます。……私が言う立場ではありませんが、Sさん、私にこき使われ、災難と言っていいほどにご苦労を重ねたことでありましょう。
デジカメ係を引き受けさせられたSさんを含めた、参加者すべての熱い絵本魂、絵本ソウルによって、講演は見事に終了することができました。


さて、講演が終わった後、Sさんに、この公民館で「韓国語講座」を受け持っているI先生を紹介されました。
実は、韓国語の習得がままならない私を見かねたSさんが、「韓国語講座」の先生を紹介して下さったのです。
I先生は物静かな若い女の先生でした。
I先生は上品なお声で、「まず、ハングル文字を覚えるといいですよ。会話ができなくても、書いていることを読めるようになりますから」と教えてくれました。
これはいいことを聞きました!
なにやら、もう韓国語を習得できた気分になってきます。……実際に自分のものとするのは、大変なんですけれどね。私って、いつも気分ばかりが先走る……。
(;^_^ A
Sさんが、「I先生とこれから食事にいきますので、一緒にいらして下さい」と誘ってくれ、韓国料理店に。
情熱の講座のあとは、韓国料理でしょう。
韓国旅行以来の、キムチ味のピリッと辛い料理の数々をご馳走になりました。
「日本は、徴兵制がないのがいいね〜。韓国や他の国にも日本の平和憲法が輸出されて、世界中の子どもたちが笑顔で絵本と出会えるようになれば、本当に素敵なのだけれど」
舌鼓を打ちながら、話題になるのはやはり子どもたちの未来、なのでした。



2006年6月30日  溝江玲子


玲子のプロフィール

溝江玲子 山羊座で12月27日と暮れも押し詰まった大変忙しい時期に生まれました。
昭和12年、旧満州国奉天に生まれて、上海に育ち、終戦後に大連から引き揚げてきました。もう、戦争はこりごりです。
職業はと聞かれると、答えがいく通りもでてきます。一番格好よく答えると、作家かな。それから、7年前立ち上げた遊絲社(ゆうししゃ)という出版社の代表です。
趣味は読書とお絵描き、素材のページのキャラクターの原画も描いています。
へこんだときに呟く言葉は「人間 万事 塞翁が馬」。これで、幾多の試練を乗りきってきたのです。

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