北海道講演・前編


北海道講演(前編) /(後編)

ある日、北海道は静内町からお電話が掛かってきました。
「北海道へぜひ講演に!」とのお電話です。
「どうして私に?」と、私は首をかしげました。だって、北海道には、ただの一度も行ったことがなく、一人の知り合いもいないのですもの。
「ネットの本屋さんアマゾンで、『カッパのかーやん』を買って職場で回し読みしたところ、とっても面白いので、その作者に講演して貰いたいということになったのです」
私は嬉しさのあまり飛び上がりました。
はるか彼方の北海道、私がいまだ足を踏み入れたことがない北海道! なんと、そこへ、『カッパのかーやん』が一足先に足を踏み入れており、愛読されていることを知った驚きは並み大抵ではありませんでした。
私は、「行きます、ぜひとも行かせていただきます」と夢中で応えました。そういう訳で、『静内町(しずないちょう)保健福祉センター』での講演が決まったのです。講演の日は、10月18日(土)です。
静内は日高山脈と大平洋の間にあって、サラブレッドが育つ牧場があるところです。
「10月半ばも過ぎた北海道の気候って、どんなかしら? 何を着ていったらいったらいいかしらね!」何しろ初めての北海道ということで、少々舞い上がっている私です。
私の頭の中では、『北海道は遠い、遠いから時間が掛かる』というのが、イコールでしっかりと結ばれていました。
「北海道には24時間くらいはかかるわね」
つぶやきながら、静内から送られてきた資料を広げて吃驚。なんと、ジェット機で、関西空港から新千歳空港まで、1時間40分とあるではありませんか。これでは、新幹線で東京へ行くより速いです。知らぬこととはいえ、ジェット機のスピードに改めて恐れ入りました。新千歳空港からバスで新冠まで行くのですが、ジェット機で北海道までいくのと、掛かるのが同じ時間なのですから。
新冠は「にいかっぷ」と読むのだそうです。新しい冠とは、サラブレッドの産地に相応しい名前ですね。
さて講演前日に新冠に到着、新冠温泉・ホテルヒルズに泊まりました。窓からは海が見え、真っ赤な夕陽が落ちていきました。ここには天然の温泉が湧いていて、地元の方も温泉を利用しています。
その夜は、『保健福祉センター』の職員の方たちが10人も集まって、歓迎会をして下さいました。それも自費で。
集まって下さったのは、静内(しずない)と新冠(にいかっぷ)門別(もんべつ)の方々です。とっても楽しい集まりで、福祉のお仕事をしている方たちの献身的な姿が、おのずと理解でき、こういう人たちに支えられて日本の福祉が成り立っているのだということが感じられます。
当日の講演では聞けないことということで、私には主に、テーマとか、どんなことからカッパを思いついたのか、など、創作に関することに意見が集中したのでした。
さて講演の当日の午前、担当のYさんが、いろいろと案内して下さいました。家々も一風変わっていて、それぞれ煙突が立っています。
まず、桜が8千本も植えられているという桜並木通りを車で走り抜けます。
「桜の時に、ぜひいらして下さい」とYさん。ほとんどが一重のエゾ山桜だということです。

観農台から見渡した北海道の風景。

「広い!」の一言に尽きます。異国情緒が漂っていて、北海道に来ているのだという実感が込み上げてきます。
次に、「牧場に行ってみましょう」と、『ライディングヒルズ静内』へ。
いました。サラブレッドの『サクラユタカオー号』です。
それからクラブハウスの中を見学。
クラブハウスの馬場では、障害を持っている子どもたちが、ポニーに乗っていました。
ポニーに乗り、動物の体温と直接触れることによって子どもたちが温もりを感じていくということでした。障害児療育ということでは、成果をあげているそうです。静内といったら馬。馬を使って、こういう地域独特の方法で、障害児療育の取り組みをしていくことは特筆に値すると思います。

ポニーに乗って。

帰りがけの入り口付近で、Yさんが、「あら蹄鉄よ、ご自由にお持ち帰り下さいと書いてあるわ」と立ち止まりました。
「これを持っていると、願いごとが叶うのですって! 蹄鉄があるのは珍しいことですのよ」
蹄鉄は、私の想像していたのより、薄く平たい形をしていました。しかし手に持つと、手にずっしりと重みを感じます。この幸運を呼ぶ蹄鉄に、私はどんな願いを掛けましょうか……

後編へ続く。

 



2003年11月24日  溝江玲子


玲子のプロフィール

溝江玲子 山羊座で12月27日と暮れも押し詰まった大変忙しい時期に生まれました。
昭和12年、旧満州国奉天に生まれて、上海に育ち、終戦後に大連から引き揚げてきました。もう、戦争はこりごりです。
職業はと聞かれると、答えがいく通りもでてきます。一番格好よく答えると、作家かな。それから、7年前立ち上げた遊絲社(ゆうししゃ)という出版社の代表です。
趣味は読書とお絵描き、素材のページのキャラクターの原画も描いています。
へこんだときに呟く言葉は「人間 万事 塞翁が馬」。これで、幾多の試練を乗りきってきたのです。

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