*姫林檎日記-細腕出張スペシャル*
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絵本大学の同窓会があったのは、7月後半のことだ。→くわしくはこちら
そのとき撮った記念写真があるのだが、今日までその写真をアップするのを忘れていた。
これです。
高山智津子先生を囲んで記念写真。jpg圧縮で画像がつぶれておりますが、本当はみなさん、とってもお美しいのよ。 |
さて、写真をあげてそれだけでは淋しいので、ちょっと、昔話も書いておこう。
いま、私の机の上には、一冊の絵本がある。
なかがわりえこ文、なかがわそうや絵の『こだぬき6ぴき』である。
絵本大学秘書を務められたT.Mさんが、ある日、私にひょいと手渡した絵本だ。
業務に忙しい彼女は、絵本を手渡すとすぐ、私の目の前から去っていってしまった。
おすすめの絵本だから読んでみてくれ、という意味と私はとらえ、この絵本をその場で購入して、いま手もとにある。
『こだぬき6ぴき』は、あの『おてがみ』と、同じコンビによる絵本だ。
子どものころに私が好きだった数少ない絵本が、このふたりの手による『おてがみ』だと知って、それでこの絵本を私に勧めてくれたのかも知れないし、単にT.Mさんが好きな絵本というだけだったのかもしれない。
6匹の子ダヌキたちが、両親とともに、つみき山のてっぺんで暮らしている。彼等の家は、8本の杉の木にぐるりと取り囲まれている。
6匹の子ダヌキたちの父親は、音楽家だ。だから、自分の家を取り囲んでいる杉の木に、それぞれド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドと、音階に因んだ名前をつけている。
私は、この場面が好きだ。
私が小さい子どもだったら、このページを何度も何度もくりかえし眺めたことだろう。
タヌキ一家の家を取り囲んでいる杉の木。
絵的には、レの木が、一番のお気に入りになっただろう。
しかし、ミの木は、6っつのベッドが並ぶ子ども部屋に影を落としている木だ。ミの木のことも、好きになってあげなくては。
食堂の窓の真正面にいちするソの杉の木もいい感じだ。みんなでワイワイ言いながら食事する部屋の窓から見えているのは、他でもないソの杉の木。ドやレやミとまちがっては、いけない。
大人の私は、絵本を一度閉じてしまうと、ベランダから見える杉の木が果たしてシだったか、風呂場の明かりに照らされているのはファだったか、すでに言い当てることは不可能だ。
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドという、音階に因んだ名前のついた杉の木が、家をとり囲んでいるという情報だけを絵本から正しく受け取り、それが家の間取りとどのような位置関係にあるかなどということは、さして重要視はしない。
しかし、子どものころの私ならば、むしろ、杉の木と家の間取りとの関係をこそ、重要だと考えるはずだ。
風呂場の明かりに照らされているのはシの杉なのだから、それは絶えず心の中にとどめておかなければならない、と強く感じたはずだと、そう直感する。
そうでないと、一本一本の木と、どうやって親密になれるというのか? ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドは木だから、今日も明日も、変わらずにずっとそこに立っている。だから、安心だ。
ものすごく好きな木と、それほどでもない木があるだろう。それはしかたがない。
ものすごく好きな木と、それほどでもない木があるということこそが、何よりも大切なのだから。
2003年10月23日 溝江純
玲子のプロフィール
溝江玲子 山羊座で12月27日と暮れも押し詰まった大変忙しい時期に生まれました。
昭和12年、旧満州国奉天に生まれて、上海に育ち、終戦後に大連から引き揚げてきました。もう、戦争はこりごりです。
職業はと聞かれると、答えがいく通りもでてきます。一番格好よく答えると、作家かな。それから、7年前立ち上げた遊絲社(ゆうししゃ)という出版社の代表です。
趣味は読書とお絵描き、素材のページのキャラクターの原画も描いています。
へこんだときに呟く言葉は「人間 万事 塞翁が馬」。これで、幾多の試練を乗りきってきたのです。
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